2020年4月13日
リアルタイムがアニメーションの新しいワークフローを実現し、VFX スタジオ MOFAC にチャンスをもたらす
MOFAC の映像製作者は、映画やメディアの幅広い分野で主導的な地位に就いたことがあります。その経験を VFX テクノロジーと組み合わせることで、MOFAC は、映画、テレビ、アニメーション、テーマパークのプランニングと設計などにおける IP コンテンツ制作の基盤を提供しています。また、ロケーション ベース エンターテイメントなど、メディアの新しいセクターにも事業を拡大しています。
アニメーションの新技術と Unreal Engine
MOFAC は、昨年、リアルタイム アニメーションにおける革新的な成果を評価され、Epic MegaGrants の資金提供を受けました。現在は、従来の映像制作パイプラインについての専門知識を、2 つのプロジェクト、The Life of Our Lord と Golden Panda でのリアルタイム アニメーションに活用しています。 The Life of Our Lord は長編アニメーション作品です。チャールズ・ディケンズの同名小説 (主イエスの生涯) を原作としています。監督を務めるのは MOFAC の CEO、Sung-ho Jang 氏です。韓国でトップレベルの VFX スーパーバイザーとして知られています。撮影を担当するのは撮影カメラマンの Woo-hyung Kim 氏です。Kim 氏は、パク・チャヌク監督の The Little Drummer Girl で、British Academy Television Craft Awards の Photography and Lighting – Fiction 部門の賞を獲得したことがあります。パフォーマンス キャプチャとバーチャル プロダクションに関する Unreal Engine のテクノロジーを利用し、最終的な映像をリアルタイムで見ることができるようになったおかげで、キャラクターの動きがリアルになり、制作期間が短縮されました。Golden Panda は 20 話から成るシリーズです。黄金のダンプリングを食べると巨大化する赤ちゃんパンダの冒険の物語です。番組の 1 話が公開されるや否や、中国の主要な動画ストリーミング サービスや、Tencent や Youku のようなエンターテイメント企業の注目を集めました。Unreal Engine のリアルタイム レイ トレーシングが番組の成功に貢献しました。リアルタイム レイ トレーシングによって、番組のチームは最高のレンダリングを行うことができました。
MOFAC がこの 2 つの IP にリアルタイム アニメーションを使うことにしたのは、従来のアニメーション ワークフローには非効率性が付き物となっていたからでした。従来のパイプラインでは、絵コンテの段階でプロデューサーがストーリーを練り、それから数か月かけて関連する各部署が順番に作業を行い、最終的なコンテンツが完成します。誰かがプロデューサーの指示を誤解したり、品質が基準に満たなかったり、より良いビジョンが生じたりすると、イテレーションが非常に非効率なプロセスになります。
MOFAC のチームは、一般的な映像制作ワークフローを出発点に、主要スタッフへの指示をすぐに変更できるようにするソリューションを追求しました。そして、アニメーションの制作プロセスでそのような柔軟性を手に入れるには、リアルタイムで作業を行う必要があることを認識しました。その結果、MOFAC は、新しい技術を試し、効率を向上させることができました。たとえば、プロデューサーがモーション キャプチャを行う俳優と緊密にやり取りし、演技について指導することができました。新しい技術によって、俳優の演技に基づいて動くキャラクターが表示され、リアルタイムで背景と合成される画面を見ながら、セットで意思決定を行うことができるようになりました。新しいパイプラインは、全面的に作り直す必要があるものでしたが、この取り組みによって、プロダクション全体の期間とコストが削減され、最良の意思決定が可能になりました。
リアルタイム アニメーションのパイプライン
The Life of Our Lord は、アニメーション プロセスの設計、開発、改善を行うために、バーチャル プロダクションと従来の映画制作の技術を組み合わせて作成されました。この方法では、監督、スタッフ、俳優の各自および相互の関わり方が、従来のアニメーション制作とは大幅に異なるものになり、没入するということが最も優先されました。また、この新しいアニメーション パイプラインには、俳優のキャスティング、ロケハン、テイクとアドリブ、リテイク、セットでの編集など、映画制作独自の特徴も含まれています。Unreal Engine を使ったリアルタイム アニメーション パイプライン
MOFAC のリアルタイム アニメーション プロセスには主要なサブプロセスが 5 つあります。そのうちの 3 つ、仮想環境内でのレイアウトの合成と撮影、リアルタイムの編集とフィードバック、セットでのプロダクションへのリアルタイム フィードバックは、Unreal Engine によって可能になったものです。Unreal Engine のリアルタイム レンダリング テクノロジーは、高品質のビジュアライゼーションと高い没入感をもたらし、これによってセットでのプロダクションが可能になります。そのためには、アセットの作成、開発、リアルタイムでの操作と更新が欠かせません。MOFAC は現在、アセット作成パイプライン、I/O パイプライン、リアルタイム編集データの同期システムとサブパイプライン、ユーザーの視点からのフィードバック用マルチレンダリング、その他のサブカスタム ツール、外部のドライブ制御機能を開発しています。
Golden Panda のポストプロダクション パイプラインの大半には、2018 年の Fortnite のトレーラー作成で使われていたものと同様のリアルタイム パイプラインを適用しました。既存のプロダクション手法との主な違いは、すべてのショットがリアルタイム レイ トレーシングを使って作成される点です。これによって、既存のデジタル コンテンツ作成ツールと Unreal Engine での最終的なビジュアルの間のギャップが解消されます。
MOFAC は現在、古い方法と新しい方法を領域に応じて併用しており、Unreal Engine でプロセスを統合することを最終的な目標としています。将来的には、最初から最後まで、1 作品全体を Unreal Engine で撮影することを目指しています。
リアルタイム アニメーションの制作における Unreal Engine の効果
リアルタイム レンダリングによる生産性向上以前は、最終的な成果を確認するには、最終的なレンダリングに対して Maya の Playblast 機能を使う必要がありました。しかし、Unreal Engine のリアルタイム レンダリングでは、監督が直ちに変更を伝えることができ、プリプロダクションからポストプロダクションまでの制作の期間を短縮できます。
カメラのブロッキングや Maya でのアニメーションを追加したり、マスター シーケンスから全体の雰囲気を確認したり、シーケンサーをリアルタイムで動かして詳細を調整したりすることができます。what-you-see-is-what-you-get (画面で見たままのものを得られる) という点が大きなメリットの 1 つであり、既存のパイプラインをさまざまな段階で合理化できます。
また、レンダリング時間についても大きく改善されました。従来のツールでは、2K の解像度で 1 フレームあたり 30 分以上かかりましたが、Unreal Engine では、レイ トレーシングを有効にした状態で、4K の解像度を 1 フレームあたりわずか 5 秒でレンダリングできます。
効果的なコミュニケーション
Unreal Engine の包括的なリアルタイム レンダリングは、監督と俳優だけでなく、すべての参加者にリアルタイムのフィードバックを提供することで、重要なイノベーションにつながります。参加者は、担当領域での美術的あるいは技術的なフィードバックを直ちに得ることができ、MOFAC ではプリプロダクションとポストプロダクションの間でかかる長いコミュニケーション時間を合理化しています。ポストプロダクションの段階でも効率化が見られます。監督が画面を見て直ちに指示を出し、その場で判断を下すことができます。
アーティストの限界の拡張
ウォーターフォール方式の副作用を減らすことで、半分の人的資源での制作が可能になりました。以前のパイプラインでは、リレー競争のように、コンテンツのソースは前の段階から渡され、単一のプログラムでまとめられました。それとは対照的に、Unreal Engine を使うと、チームが最終的な成果を確認でき、各自の役割に縛られることなく、境界を越えることができます。アセットのコスト削減:Houdini-HDA と Megascans
時間や予算の制限がある場合など、状況によっては、アーティストがアセットを作成できないことがあります。ゲーム業界でレベル オブ ディティール (LOD) を持つアセットの最適化を行った経験があるアーティストがいなかったため、Houdini を使って、シンプルだがメンテナンスの手間がかかるプロップをプロシージャルにモデル化し、時間を短縮していました。
同じファイルで、必要なメッシュの数を同じにしたうえで、FBX フォーマットでインポートする方法と Houdini Digital Asset 経由でインポートする方法を比較すると、後者のほうがずっと楽な手順で、データ サイズが小さくなりました。この原因の一部は、大規模な環境に追加されるオブジェクトのなかには、多数のバリエーションを作ってからインスタンス化されたものがあったからです。
環境の作成については、少人数のアーティストが大量の作業を行う必要があったため、必要な品質を備えた美しい背景を作るためにアセットを収集することが困難でした。Megascans は無償で利用できたので、スピーディに自然界のアセットを密に配置することができました。また、フォリッジ、デカール、指数関数的高さフォグ、Atmospheric Fog、ポストプロセス ボリュームを使ってさまざまなバージョンの背景が作成されました。
Golden Panda の監督 Ho-seok Sung 氏と撮影監督の Woo-hyung Kim 氏のどちらも、Unreal Engine を使ってルックの確認とライティングのセットアップをリアルタイムで行い、よりクリエイティブな作業が可能になったと述べています。ほかにも、既存のソフトウェアと比較すると大きな違いがあり、また、現在はパイプラインの改善に取り組み、今後の可能性に期待していると両氏は述べています。
リアルタイム レンダリングと未来のコンテンツ
リアルタイム アニメーション プロジェクトのほかに、MOFAC は、Unreal Engine を活用して、バーチャルなキャラクターを物理的な会場と組み合わせたイマーシブなライブ パフォーマンスに取り組みました。また、4 月に撮影を開始する予定の大規模プロジェクトのプリプロダクション段階にも Unreal Engine を使用しています。このプロジェクトのプロセスでは、バーチャル セットを作成したり、VR スカウティングを利用して撮影前にロケーションを確認したりします。バーチャル セットでは、監督が動きや演技について事前に俳優と協力できます。また、バーチャル カメラ ツールがカスタマイズされていて、社内にハードウェアをセットアップし、撮影カメラマンによる VR での撮影を支援します。MOFAC は、撮影の開始後は、Ncam を使ったセットでのビジュアライゼーションをサポートする予定です。コンテンツの本質は、ストーリーのエンターテイメント要素です。今では、Unreal Engine を使うことで、膨大なコストをかけることなくこれまでにないレベルのリアルタイム レンダリングを活用でき、スタジオはさまざまなビジョンを効率的に試すことができます。コンテンツの製作者は将来中核的な役割を果たすようになり、現在よりもはるかにクリエイティブなコンテンツ市場への道を開いていくことになるでしょう。この事例からおわかりいただけるように、Unreal Engine は映画とアニメーションの業界のクリエイターに多くのメリットをもたらす、強力なツールです。