これまでのトレーニングの課題の 1 つは、訓練生は本物の航空機を使い、熟練したインストラクターの前で修理や整備を行って合格するしかありませんでした。効果的ではありますが、このトレーニングはコストがかかる上に危険性があります ー そのコストは、航空機や物資へのアクセスにかかります。また、訓練生は経験不足のため危険がともないます。教室での訓練しか受けていない初心者でその仕事の物理的な側面に慣れていないと、物資を無駄にしたり他人に怪我をさせたりするため、飛行機を完全に無駄にしてしまう可能性があります。
近年、航空業界は、実際の航空機で練習するコストや危険性なしに整備士や地上作業員をより完全かつ迅速に訓練するのに、VR や AR のような新しいメディアがどのように役立つかのか綿密に検討しています。VR は、従業員がスキルを磨くために必要な安全な環境を提供し、プロセスに慣れるまで何度もメンテナンス シナリオを実行することができます。
この分野で最も最近真剣に取り組んでいる企業の 1 つが、アメリカに拠点を置く VR/AR 専門企業の Inlusion 社です。最近、 Inlusion 社は航空サービス会社の Baltic Ground Services 社と FL Technics 社と協力し、航空機の修理とメンテナンスに関する革新的な VR トレーニング エクスペリエンスを開発しました。
XR への移行
Inlusion 社は過去 10 年の間、VR と AR を含む XR (クロス リアリティ) を研究してきました。「XR ソリューションの実験を行い、石油、ガス、自動車、航空などのさまざまな業界のケース スタディに取り組みました」と、Inlusion 社のプロジェクト マネージャーである Dinius Staras 氏は言います。「これらの産業に向けたその技術の可能性を調べたかったのです。」これらのプロジェクトを世界中の様々な会議で発表した後、特に航空業界で注目を集め始めました。これにより、Inlusion 社は FL Technics 社と Baltic Ground Services 社による VR ベースのトレーニングを開発しました。
Inlusion 社は、約 30 名のデベロッパーを抱える SME で、業界向けのリアルタイム トレーニング ソリューションに取り組んでいます。Staras 氏は、素晴らしい VR トレーニング エクスペリエンスを作り出すことは、既存のマニュアルの視覚要素を変えること以上のものだと説明します。「ユーザー エクスペリエンスに特化したチーム メンバーが複数います」と、Staras は言います。「これは、企業にとって並外れたエクスペリエンスを創造します。そして、ビジネスの問題を解決するという点で非常に重要なものです。」
この 3 年間、Inlusion 社は Unreal Engine を使って作業を進めてきました。Staras 氏は、このプラットフォームの優れたビジュアル品質、最適化ツール、アセット管理ツールを、UE4 への移行を決定した主な要素として挙げています。「開発パイプラインでは、Unreal Engine だけで実装して作業することで、最終的な結果がより良いものになります。」と、Staras は言います。
航空機整備用のシミュレーション トレーニング
Inlusion 社のプロジェクトに感銘を受けた企業の中には、ヨーロッパの航空会社向け MRO (メンテナンス、修理、オーバーホール) サービスの大手企業である FL Technics 社がいました。FL Technics 社は、業界の最先端を行くことを目指して、業界全体の問題に取り組むために Inlusion 社にアプローチしました。航空機整備士の需要が高いため、FL Technics 社ではこうした人材のトレーニングを強化し、トレーニング時間を短縮したいと考えていました。トレーニング期間は一定期間と定められていますが、航空機の予約状況によっては訓練生は訓練が受けられない場合があります。また、訓練生が必要な月数を費やしても、整備士の仕事のあらゆる面で十分な実務経験が得られない可能性があります。
「整備士が従わなければならない規制はたくさんあります」と Staras 氏は言います。「例えば、倉庫を横切って歩いていて、床に工具が置かれているのを見た場合、そのそばをただ通り過ぎることはできません。また、工具を拾ってどこかに置くこともできません。彼らはそれを受け取り、正確な手順に従ってそれを見つけた場所を記録しなければなりません。十分な訓練を受けたと思われるためには、実際の航空機修理に加えて、この手順を知っている必要があります。」ただし、トレーニング期間中に訓練生が床に工具を見つけられなかった場合、この手順を実際に練習することはできません。
また、整備士のスキルを新鮮に保つという課題もあります。「入ってきた飛行機のエンジンにある特定の欠陥があったとします」と、Staras 氏は言います。「2 年前に整備士がトレーニングを受けていた場合、この特定の飛行機の特定の欠陥を修正する方法を彼らが覚えている可能性はどのくらいあるでしょうか?」 VR ソリューションを追求する理由は、VR は新人には追加の練習を提供し、義務化されたトレーニングをより早く修了できるようにするとともに、すでに仕事に就いている整備士の復習にもなるからだと同氏は言います。
Inlusion 社と FL Technics 社のコラボレーションの結果、ボーイング 737 向けの VR トレーニングシステムが完成しました。このシステムを使うと、整備士は航空機のマニュアルの手順を使用してスラスト リバーサーを開く練習ができます。
VR エクスペリエンスには次の 2 つのモードがあります。1 つはトレーニング用で、もう 1 つは試験用です。トレーニングモードでは、訓練生は視覚的なヒントを使用して誘導され、再起動したり、ミスをしたり、タスクが自動的に完了するのを見ることができます。試験モードでは、様々な状況に適切に対応できるように、様々なアクシデントが投入されます。その結果、訓練生は実際の航空機で作業する場合に発生する費用も危険性もなく、何時間も練習することができます。FL Technics 社は、このようなトレーニング モジュールによって、整備士に義務付けられている 3 ヵ月のトレーニング期間がいつか 3 週間に短縮されることを期待しています。
VR エクスペリエンスの開発中に、Inlusion 社のチームは予期せぬ課題に遭遇しました。整備士は横になって機体の下に滑り込まなければなりません。このような動きは、ユーザーにとって、特に、繋がれたヘッドセットを装着している場合に、厄介で不快である可能性があります。
FL Technics 社と協議を重ねた結果、Inlusion 社はトレーニングのその部分のために仮想航空機を持ち上げるというアプローチに着地しました。「これは私たちのユーザー エクスペリエンス チームがクライアントと協力して作った非常に興味深いソリューションでした。」と、Staras 氏は言います。「トレーニングに悪影響を与えることはなく、最高のユーザー エクスペリエンスを得ることができました。」
VR で除氷する
VR での航空整備訓練に適したもう 1 つの方法は、除氷および防氷の手順です。これらの手順では、作業員は液体化学物質を航空機に特定量スプレーし、一方のアームでホイストを持ち上げ、他方のアームでスプレーする必要があります。正確さだけでなく、離陸時間に近い航空機でよく行われる手順なので、スピードも重要な要素です。これらの作業を実施する際に、経験の浅い作業員がスプレー装置を誤って操作したり、スプレーする液体が多すぎたり少なすぎたり、安全手順に従わなかったりする可能性があります。除氷 / 防氷の各手順のための液体の価格は約 2,500 米ドルであり、間違った場所に誤った量の液体を使用すると、航空機が完全に壊れてしまう可能性があるため、コストは大きな問題となります。
リトアニアとポーランドで空港地上サービスを提供している Baltic Ground Services 社は FL Technics 社のプロジェクトの噂を聞きつけ、VR を使った除氷 / 防氷トレーニングを持ち込もうと Inlusion 社にアプローチしました。
その結果始まったプロジェクトでは、インストラクターは、最も基本的なシナリオから訓練生をスタートさせ、訓練生が多くの異なる状況に対処できるようになるまで、複雑な状況 (悪天候、誤った配置のスプレー器、スプレー ゾーンへのトラックの乗車) を追加することができます。作業員が実際の飛行機で実際のスプレー器を使用するまでに、彼らはさまざまな最適および非最適なシナリオで問題を解決し、体で覚える機会を得ました。
訓練生の反応は圧倒的に肯定的でした。ある訓練生は、「初めは (VR で)、ホイストの操作と翼へ液体をスプレーするのを同時に行うのは困難でしたが、次第に VR の練習に慣れてきました。」と話しました。「本物のリフトに乗ったとき、私の手はすでに何をすべきかを知っていました。」
いつでも使用できるため、インストラクターは VR トレーニングを評価しています。あるインストラクターは、「除氷トレーニングはシーズンが始まるずっと前に行われるので、訓練生は理論的な知識を忘れ、練習に来たときに再学習する必要がありました。」と話しました。「VR を使えば、新しい理論を学んだ同じ日に実用的な知識として応用することができます。」その他のインストラクターは、VR トレーニングは経験豊富なベテランの知識のギャップも明らかにしたと報告しました。
VR 航空に Unreal Engine を使用する
航空トレーニング向けのアプリケーションを開発するには、速さと精度が非常に重要になります。Inlusion 社のチームは、Unreal Engine がこれらのニーズを満たしていることに気が付きました。「ブループリントでの高速プロトタイピングと、高度な C++ コードを書くためのオプションの両方があるのは良いですね。」と、Staras 氏は言います。デベロッパーは、ユーザー インターフェースを作るための UMG (Unreal Motion Graphics UI デザイナー) と、UE4 にビルドインされているパフォーマンス監視や最適化ツールも評価しています。これらのシミュレーションを実行するシステムは、16 GB の RAM と NVIDIA 1080 GTX GPU を搭載したシングル PC です。
「私たちが一番評価しているのは、もちろん、他にはないレベルのレンダリングです。」と Staras 氏は言います。「Unreal Engine は、見たいものをすべてに対応して処理します。」
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