浜口直樹氏は、2003 年にスクウェア・エニックスに入社後、高い評価を獲得した FINAL FANTASY XII の開発に参加。その後、FINAL FANTASY XIII シリーズや MOBIUS FINAL FANTASY を含め、熱烈に支持されている FINAL FANTASY の複数のタイトルに携わってきました。
浜口氏は FINAL FANTASY VII REMAKE の共同ディレクターとして、同じく共同ディレクターの鳥山求氏、ディレクターの野村哲也氏と協力し、豊富な経験を生かしてゲームのデザインとプログラミングの責任者を務めました。
作品のリリースに至るまで、FINAL FANTASY VII REMAKE は間違いなくこれまで最も大きな期待がかかった作品の 1 つです。スクウェア・エニックスは、この人気作品を刷新するにあたり、大きなプレッシャーを感じていました。オリジナル版は、一部では史上最高の RPG と称えられている名作です。とてつもない重責を担いながらも、果敢に新たなステップも踏み出し、リメイク版を完成させたこの作品について、レビュー サイトの GameSpot は「これは記憶の中の FINAL FANTASY VII ではなく、心の中で常に思い描いていたものだ」と述べています。
スクウェア・エニックスが、オリジナル版 FINAL FANTASY VII の精神を受け継ぎながら、グラフィックス、戦闘システム、そして世界をどのように刷新したのか、FINAL FANTASY VII REMAKE で共同ディレクターを務めた浜口直樹氏に話を伺いました。どのようにゲームの環境を具体化して没入感を高め、優れた視覚効果を取り入れ、ゲームのパフォーマンスを高めたのかなどについてお聞きしました。また、Unreal Engine への移行がどのようにチームの前進を促したかについても解説していただきました。
FINAL FANTASY VII REMAKE は、オリジナル版の精神を受け継ぎながら、新しく新鮮な感じがする点が評価されています。この微妙なバランスをどのように実現されたのか、聞かせていただけますか?
FINAL FANTASY VII REMAKE 共同ディレクター、浜口直樹氏:そのように受け止めていただき、ありがとうございます。リリース後のプレイヤーの反響を見ていて、苦労して作り上げたリメイク版が評価されたことを光栄に思っています。
浜口氏:ミッドガルがファンの方々に受け入れられてうれしく思っています。オリジナル版 FINAL FANTASY VII では、技術的な限界から、世界の中を移動するとき、画面が固定されていました。オリジナル版には多くのショートカットがあり、次の場所へのジャンプが意図的に組み込まれていました。今回の目標は、キャラクターから離れず、オリジナル版では避けてすき間としていた場所を具体化することでした。当然、これにより没入感が高まりましたが、オリジナル版の要素を手放すことなく、場所のバラエティを増やすチャンスも得られました。
FINAL FANTASY VII REMAKE では、オリジナル版ではゴツゴツしていたキャラクターが、よりリアルに、しかしスタイルに沿った形で作り直されています。ルックスについては、どのように取り組み、完成させましたか?
浜口氏:プロデューサーの北瀬佳範とディレクターの野村哲也から、FINAL FANTASY VII REMAKE のチームへの誘いを受けたとき、映像作品「FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN」のビジュアル クオリティをゲーム内でリアルタイムで実現することを目指すと言われました。
物理ベースのライティング技術を使ったため、見た目の印象は、ライティングの設定に応じて変わります。完全にフォトリアルなデザインを目指していたわけではありませんが、クラウドが壱番魔晄炉で列車から飛び降りるシーンは、ディレクターの野村からクラウドの表情に OK をもらうまで何度もやり直す必要がありました。しかし、そのシーンに取り組むなかで、ライティングの方向性が明らかになり、その時点から量産がスムーズになったのは、大きなプラスでした。
3 つめのシミュレーションは、FINAL FANTASY XV で実装し、その後、当社のテクノロジー推進部のおかげで UE4 に統合された、Bonamik です。Bonamik は、主にキャラクター関連のシミュレーションに使いました。コントロールしやすいため、髪、布地、ソフトボディなどの物理演算にかなり使いました。コア アルゴリズムとしてはポジションベースのダイナミクスを使い、標準の物理シミュレーションでは難しかったであろうシネマティックな動きを表現できました。
本作は、グラフィックスのクオリティが高いだけでなく、PlayStation 4 と PlayStation 4 Pro で一定のフレーム レートを維持しながら、高解像度で動作します。これはどのように実現しましたか?
たとえばバースト システムは、プレイヤーが繰り返しを避けられるようにするために実装されました。このシステムを使うと、敵を倒すためにダメージの大きいコマンドを仕掛けることができます。より短時間で敵をバースト状態にするコマンドで敵を急襲したいかもしれません。あるいは、敵の HP が低い場合は、バーストを目指すよりもダメージの大きいコマンドで攻撃したほうがいいかもしれません。また、バーストへの準備として、相手の動きを止めるコマンドで攻撃するといいかもしれません。選んだコマンドによって多数の異なるオプションが生まれる可能性があり、こうしたオプションが戦略の要素とつながるように設計しています。
浜口氏:キーフレーム アニメーションの特徴を生かせるよう細心の注意を払いましたが、これはモーション キャプチャだけでなく、アニメーターの想像力や芸術的才能に完全に依存するものです。もちろん、リアルで微妙な動きを必要とする部分にはモーション キャプチャを多用しましたが、攻撃のアクションやその他もろもろについては、ゲーム デザイナー、カメラマン、アニメーターが協力し、FINAL FANTASY VII REMAKE にふさわしい目を引くアクションを作り出せるよう力を注ぎました。その結果、アニメーションは刺激的で魅力的なものになったと思っています。
浜口氏:FINAL FANTASY では、召喚獣は戦略のなかで役割を果たすだけでなく、ビジュアル的にかっこよくなっている必要もあるので、気に入っていただけてうれしいです。オリジナル版のようにプレイヤーがあらゆる戦闘で召喚獣を自由に使用できるようにはしないという決定には明確な理由があります。召喚獣に限ったことではありませんが、いつでも使用できるメカニクスがあった場合、その使用に伴うメリットとデメリットが戦闘システムで適切に設計されていることを確認する必要があります。そうしないと、そのメカニクスは毎回確実に勝利を収めるための方法になり、戦闘が最終的に同じパターンを繰り返すだけの単調なものになるおそれがあります。
FINAL FANTASY VII REMAKE は、シリーズで初めて Unreal Engine を使用した作品です。Unreal Engine が適切と思われたのはなぜでしょうか?キングダム ハーツIII で Unreal Engine を使用した経験を FINAL FANTASY VII REMAKE の開発で生かすことはできましたか?
浜口氏:FINAL FANTASY VII REMAKE の開発は当初、外部の開発パートナーを中心とする組織体制で進めていました。2017 年頃に、製品のクオリティをさらに高めるため、そして量産のスケジュールを安定させるために、社内開発を中心とする体制に切り替えました。ただし、その後も多くの外部パートナーとの協力関係は続きました。そういった点から、リメイク版を開発する組織体制を考えると、社内外で知識が蓄積されている公開エンジン上で開発するほうが適切であると判断しました。
さらに、キングダム ハーツIII の開発を経験したスタッフ メンバーが FINAL FANTASY VII REMAKE の開発に参加するようになり、彼らが Unreal Engine を使うなかで獲得してきた知識を内部でうまく広めることができました。これが開発における推進力になったことは確かです。
AAA の FINAL FANTASY タイトルを開発するときは、これまで自社製の開発エンジンを使用することが普通でした。このため、スタッフメンバーが新たに加わるときは、学習期間を考慮に入れる必要がありました。しかし、Unreal Engine なら、利用できる人があちこちに大勢いるため、すでに使用した経験があるスタッフ メンバーがたくさんいました。その結果、学習期間が短くなり、これは開発の効率を考えると大きなメリットでした。